2021/06/03 19:40
「安全と安心」、今ほどこのフレーズが使われた時代はなかったように思います。
企業から政治家までが使用するキャッチフレーズとなっていますが、いつ頃から使われたのでしょうか。
昭和28年に「主婦の食品手帖―五色の毒」(故天野慶之著※参照)が出版されましたが、安全性より腹の足しの時代だったからでしょう。
「街頭で売ったが一冊も売れなかった」と、後に天野先生が述懐されています。
その3年後には「おそるべき食物」を出版していますが、この辺りからが安全・安心な食べ物の言い始めではないかと思われます。
↑ 天野先生(1956年撮影)
安全の積み重ねが安心につながりますので、まずは何より安全が第一なのですが、安全とは食品衛生法に照らして、一般生菌、大腸菌がどの位いるとか食中毒菌がいるかどうか等、数値化して客観的に判断できます。
これに対して、安心とは「あの人が作るから安心だ」「あの店なら大丈夫」と主観的なんですね。
今、その「安心」が揺らいでいるように思います。
昔、町店が元気だった頃、店の前に立てば製造現場が一目瞭然で、黙々と下駄を作っていたおじさんとか漬物を漬ける人、包丁を研ぐ人、かつお節を削る人、豆腐を作る人、天ぷらを揚げる人等々、買物に行く人先々で交流があり、今流行の「食育」の場になり、時には介護の場にもなっていまいした。
そこから信頼関係が生まれ、時には身の上相談までしたりと、ごく自然なセーフティネットがあり「安心感」もありました。
ところが、いつの頃からか知らない間に作り手と買い手の顔の見える関係が無くなり、物が直接人伝に渡されなくなってしまいました。
先日NHKで「食の砂漠化」現象として、町なかに店が無くなった為お年寄りが生鮮食料品を買えなくて、インスタント食品等を食べ続け栄養が偏り病気になっっていると放映されていました。
時を経てシャッター通りとなった商店街を歩くと無くしたものの大きさに気付き、消費の場と共にオアシスでもあった商店街をもう一度取り戻せたらと感じています。
その利便性にスポットライトが当たるネット通販ですが、できれば、昔の町店のように「顔が見える関係」で「安心感」を感じてもらえるネットショップになりたいと思う今日この頃です。
※天野慶之(あまの けいし)1914年東京都生まれ。農学博士。2002年没。
東京水産大学学長、日本伝統食品研究会会長、日本有機農業研究会代表幹事などを歴任。主な著書に「おそるべき食物」(筑摩書房)、「主婦の食品手帖―五色の毒」(風媒社)など。日常生活の中で自ら実践する有機農業の米作り野菜作りはNHK制作番組「耕せ『命の農』」の中でも紹介されている。「おそるべき食物」は2000年に良い食品づくりの会から復刻版を出版。